「豊饒の海」は、三島由紀夫最後の作品です。第4巻「天人五衰」最終回の原稿を編集者に託して、彼は最期の地に出発しました(注意したいのは、死にに行ったのではなく、死ぬかもしれない場に行ったということ。決起の賛同者があれば、彼は死ななかったはずです。結果に惑わされたくありません)。
「春の雪」
今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で。(松枝清顕)新潮文庫P467
「奔馬」
ずっと南だ。ずっと暑い。……南の国の薔薇の光りの中で。……(飯沼勲)新潮文庫P491
「暁の寺」
こんな姫の姿をしているけれども、実は私は日本人だ。前世は日本で過ごしたから、日本こそ私の故郷だ。(月光姫 ジン・ジャン)新潮文庫P52
「天人五衰」
私は俗世で受けた恩愛は何一つ忘れはしません。しかし松枝清顕さんという方は、お名をきいたこともありません。そんなお方は、もともとあらしゃらなかったのと違いますか? 何やら本多さんが、あるように思うてあらしゃって、実ははじめから、どこにもおられなんだ、ということではありませんか?(月修寺門跡 綾倉聡子)新潮文庫P340
混沌を踊りたい
「豊饒の海」は、もともと「月の海」の題で構想されていました。そして完成作、特に「天人五衰」は、当初の予定より一年近くも早く、半分近い分量で完結しました。絞ったわけですが、捨てたものは多く、創作ノートを読むと、ああ、これが小説化されていればと、無い物ねだりをしたくなります。しかし、作者は現在の形を完成形としたのであり、これも作者の意志として受け止めなければいけないでしょう。そうした様々のことを、ダンスにしようと思います。
ダンスは物語の形象化ではありません。
三島由紀夫が生きていることをダンスで実感したい。
「豊饒の海」には、三島由紀夫の美学が集大成されています。
これが終わっても、私は三島由紀夫を踊り続けるでしょう。
写真は、「豊饒の海」全4巻の表紙絵です。(2018.1.21記)
Comments